自然のおもむくままに、人間がほんの少しだけ手を添えて、ゆっくりと風景を変えていく。
この記事は、茶畑の開墾作業に続く、作物定植の第二話である。
2026年第一話 10年放置された茶畑にあらためて注目する | 茶畑開墾とチャノキ残渣活用の試み
耕作放棄地茶畑の植生攻略と開墾。茶畑跡地のポテンシャル、開墾コスト試算について、実務データを集約した。
さあ春が来た。苗を植えよう——そう意気込んだ矢先、待ち受けていたのは過酷な現実だった。
しかし新たな作物をもってしても、その農地は一瞬ではきれいに生まれ変わらなかった。凄まじいウリハムシの襲来によって。
そんな想定外のトラブルに右往左往する、リアルで泥臭い開墾の現実を記録する。
桜の散る頃、そして苗作り #
開墾したばかりの畑に何を植えようか? 一面覆い尽くしたチャノキの剪定枝を除けば、意外と土自体は柔らかく良い状態なのだ。
そんな条件の中、最初に選んだ作物は「千成(せんなり)ひょうたん」だ。 かつて醤油差しや七味入れに使われていたようなイメージの、小ぶりのひょうたんである。 夏場に旺盛に成長し、荒地や痩せ地に強いといったタフな特性を持つ。
栽培は4月上旬にスタートした。 春とはいえ、この時期の三重県亀山市の山間部はまだ肌寒い。 ひょうたんの発芽には25℃近い温度と適度な湿度が必要となる。
温度管理に一工夫を加え、クリアボックス(透明な収納ケース)を簡易的な温室として利用した。

管理方法は、とてもシンプルなルーティンを徹底した。
日中:日光を取り入れるためにフタを開ける 夜間:放射冷却による冷え込みを防ぐためにフタを閉める
この繰り返しにより、播種から10日目に双葉が展開し、2週間を過ぎる頃には元気な本葉が顔を出した。
ひょうたんは根がまっすぐ深く伸びる「直根性(ちょっこんせい)」の植物だ。 ポットの中で根が回る前に、早めに現地に定植するのが、活着率を高める鉄則となる。
10年経った茶畑の土はどういう状態なのか? #
育苗と並行して、現地の土壌を改めて観察した。そこで驚くべき事実に直面する。
10年間未整備だったということは、人間の都合による化学肥料や農薬の投入が完全にストップしていたことを意味する。その間、チャノキ自体の落葉がひたすら地面に降り積もり続けた。
土を少し掘り返してみると、それは歳月を経て見事な「天然の腐葉土層」へと姿を変えていたのだ。 うっすらと白く、良質な糸状菌(菌糸)が這っているのも確認できた。

さらに深く掘り下げると、その下からは元々の地層である「赤黄土」が顔を出す。 お茶の跡地である以上、この下層土は酸性に傾いている可能性が極めて高い。
そこで今回は、全面を重機で耕起するような大掛かりな手法はとらない。 苗を植え付けるポイント(植え穴)だけをピンポイントで狙い、 くん炭と苦土石灰を混和してスポット的な土壌改良(酸度中和)を施す戦略をとった。
ひょうたんの定植とウリハムシによる食害の現実 #
ひょうたん苗の定植(DAY5) #
4月21日、丁寧に育てた40本ほどのひょうたん苗のうち、まずは第一陣として30苗を畑に定植した。

現場の地表には、刈り倒したチャノキの枝木がそのまま横たわっている。 食用野菜の栽培は品質管理面からハードルが高いため、まずは「非食用農産物」であるひょうたんから再生をスタートさせる。
スポット改良を施した植え穴へ苗を落とし込み、二日をかけてトータル40株の定植を完了させた。 荒涼としていた藪跡に緑が並び、それなりに「畑」らしい表情が生まれ始めていた。
【動画】10年放置された茶畑の開墾(DAY5) / スポット的に土壌改良して、苗植えした。 #チャノキ #刈り倒し #天然の棚 #苗植え #ウリ科 #ひょうたん #チャレンジ #開墾
- YouTube @vegegardenclubより
定植を広げた日(DAY6) #
翌日(DAY6)も引き続き定植作業を広げていく。トータル40株の定植を完了させ、この段階まではすべてが順調に進んでいるように見えた。
10年放置された茶畑の開墾(DAY6) /非食用農産物の栽培から始める耕作放棄地再生 #チャノキ #刈り倒し #天然の棚 #苗植え #ひょうたん #へちま #チャレンジ #開墾
ウリハムシの強襲(DAY7) #
しかし、すっかり油断していた。ひょうたんはウリ科である。 定植直後、ひょうたんの幼苗を待ち受けていたのは、ウリハムシの容赦ない集中攻撃だった。
激しい食害によって、成長を支える葉が一瞬にして食いちぎられ、植えた苗の実に3分の2が枯死。生き残った残り3分の1の苗も生気を失い、かなり弱り切ってしまった。
これが開墾の現実だ。理想と現実のギャップに直面し、ここですぐに方針を切り替える必要に迫られた。
「天然のあんどん」設置と事後対策(DAY7) #
後悔して立ち止まっていても始まらない。 生き残った株の救出と事後処理に全力を挙げるため、現場にある資源だけで緊急対策を講じた。
まず、物理的に虫よけ・風よけとして、「あんどん」を作ることにした。 廃棄物だったチャノキの残渣を、害虫から苗を守るシェルターとして利用する試みだ。
敷地内に大量に転がっているチャノキの枝木、これをかき集めてひょうたんを囲み、風や虫の侵入を物理的に和らげる「天然のあんどん」を設置した。
さらに、ウリハムシが嫌うとされるコンパニオンプランツの導入を思いつく。 たまたま別の畑でこぼれ種となって自生していた赤紫蘇を掘り起こし、ひょうたんの株元へ急遽移植した。

本当にひどい状態からのリスタートだが、やれるだけの防衛線は張った。 ここに生き残ったひょうたんは葉の表面に毛が立つなど環境順応も進んでおり、相当にタフなはずだ。ここから踏ん張り直しに期待したい。
10年放置された茶畑の開墾(DAY7) /ウリハムシの攻撃を受けたひょうたん苗 #チャノキ #刈り倒し #天然のあんどん #ひょうたん #苗の成長 #チャレンジ #開墾
開墾で見えてきた戦略 #
チャノキ残渣を動かさない理由 #
私がここで目指しているのは、近代農業とも、既存のルールに縛られた自然農とも違う。 短期的な収益性や換金性を最優先にする「効率一点張り」の農業ではない。
そもそも、この場所に堆積したチャノキの木株や木枝を「存在した場所から別の場所へ動かすこと」、これ自体が最もエネルギーを消費する非効率なのだ。
であれば、その場に置いたまま緩やかに分解を促し、炭素循環させて完全に土へと還していく。 それまでの間は、ひょうたんの蔓を支える棚資材としての役割を全うしてもらう。
要はこの土地をトータル(全体最適)で見て、一番負荷が少なく、良いであろう方向を選択したいのだ。
予測不可能な自然と、方針転換 #
今回のウリハムシの手痛い洗礼を経て、ひょうたんの防衛と同時に、この過酷な開墾地で育つ「他の作物の可能性」も並行して検証していく必要性を痛感させられた。
自然の洗礼を浴びて泥臭く右往左往し、得られたデータをもとにエンジニア的な即座の方針転換を行う。これこそが開墾の本質かもしれない。
現実として、この農地を持て余し、管理に困っている所有者がいた。そして縁あって、私がその土地を借り受けた。だからこそ、過剰な金はかけない。
一瞬ですべてが変わるようなシンデレラマジックは通用しない。 だからといって、一見スマートな「時間を味方につける」という思想も、トラブルの前には無意味だ。現現実(リアル)は甘くない。
巷にあふれる「これをマネすれば一瞬で成功する」というような都合のいいマジックは、この開墾現場には存在しない。これが10年放置された耕作放棄地のリアルな泥臭い現実なのである。
自然に選択してもらい緩やかに変えていく #
しかし、ここで手をこまねいているわけにはいかない。だからこそ、自然が10年かけて用意してくれた貴重な腐葉土を活かすのだ。
人間は、そこにほんの少しだけ手を添えて、トラブルを乗り越えながら味方につけていく。こんな課題解決のアプローチがあっても良いのではないだろうか。
ウリハムシとの攻防戦を経て、この開墾地は次のフェーズへと進んでいく。